4月16日(土)

 いかんことに明日仕事が入ってしまった。週に一度のグレートホステスの日が流れてしまう。これは何とかしなくてはならない。
 しかし仕事をどかすことはできない。どうしようもない。なので今日行ってみよう。沙夜ちゃんいるかどうかは分からないけど。
 最近沙夜ちゃんは日曜日にいることが多く、土曜日にもいるとなると、土日両方働いてるってことになる。はたまた土曜か日曜どちらかで、どっちにするかは週によって違うのかもしれない。
 まあそれは考えていても仕方ない。どっちにしてもワシは明日無理なわけだから、今日行って沙夜ちゃんに会えることを願おう。
 でも歩いて行って外から見て「はい、いませんでした」というのはつらいので(土曜日だからその確率が高い)、まずバイクで買い物行って、その足でグレートホステスを見に行った。
 バイクで駐車場の裏口から入る。店内は見えなかった。そのまま駐輪場へ。おおっ、沙夜ちゃんの自転車がある。土曜日もお仕事お疲れ様です。
 一度帰って歩いてグレートホステスへ。店内を見ると、テーブルを拭いている沙夜ちゃんを発見。残念ながら向こうを向いておられる。
 入店。先週いた新人店員が喫煙席付近の作業場にいた。入り口にいちばん近いため、この人の案内だろう。
 が、キッチンからワシを見つけた沙夜ちゃんが出てきてくれる。そのままワシを案内してください!
 しかし沙夜ちゃんは、すでに新人がスタンバイしているのを確認すると、すぐに奥のキッチンへと戻ってしまった。先週みたいにずっと見てるって事はしてくれなかった。きついな…。
 2週連続で同じいいことを期待してはいけないか。その新人さんに店内が見渡せる4人がけの席に案内されて座った。
 さて、たまにはいつもと違うものを頼むか。おいしそうなポテトサラダを発見。300円とお手ごろ。ドリンクバーを頼んでもワンコインプラスアルファだ。この2点を頼もう。
 注文を決めて顔を上げる。するとすぐに沙夜ちゃんが注文を取りに来てくれた。ポテトサラダとドリンクバーを頼む。
 「ドリンクバー、どうぞご利用ください」
 常連なのだからそれは言わなくても…。入店のときといい、今日のワシは何だか普通の客だな。きつい…。
 沙夜ちゃんが準備しに来てくれた。しかしその準備はフォークをポンと一つテーブルに置くだけで終わり。すぐに去ってしまった。そのあと近くのお客に「こちらお下げします」とかなり丁寧な感じで接していた。向かいの客にも、隣の客にも。ワシと違いかなり丁寧。きつっ…!
 ポテトサラダを持ってきたのは新人。思ったよりも小さかった。明らかに何かのサイドメニューだ。そしてドリンクバーでカルピスを注いで持ってきた。
 あまりにも小さいのですぐに食べ終わった。ラジオで野球を聴きながらくつろいでいた。
 今日のメンバーは沙夜ちゃん、新人、そして若木さん。若木さんがいるときに入店するのは久しぶりだ。相変わらずのやさしい雰囲気である。
 前回同様、沙夜ちゃんは裏方での仕事が多い。キッチンでの作業ばかりしていてあまり表に出てこない。キッチンで「は〜い」と元気に返事する沙夜ちゃんの声がこだましていた。
 そして喫煙席の作業場での作業。キッチンにしろその作業場にしろワシの席からは遠い。ワシはメガネをかけて沙夜ちゃんのことを見ていた。
 とある客のレジを沙夜ちゃんが担当し、しばらくレジにいる。そしてレジの前にあるお菓子とおもちゃの売り場を整頓。ここはちょうどワシの正面にある。ワシのまっすぐ前に沙夜ちゃんがいるのだ。ポーッと眺めていた。いい位置関係だ。ずっとそこにいてください…。
 と、そこに店長が現れた。店長がレジに立つやいなや、沙夜ちゃんは満面の笑みで店長に近寄る。そこで楽しそうに話している。すごく楽しそうだ。
 そして店長が手招きしながらキッチンへ向かうと、沙夜ちゃんはそれについて行った。目の前にいるワシを置き去りにして。ワシよりも店長の手招きを選んだ沙夜ちゃん。
 なんか店長が現れたとき、いつもよりも風格を感じたんだよな。今日はこいつには勝てないと感じた。そのすごい風格の店長に沙夜ちゃんを持っていかれてしまった。完敗。
 まあ何があったわけでもなく、すぐに店長はレジに戻り、沙夜ちゃんはキッチンに残った。
 いつの間にか店内がすごく静かになっていた。客はワシひとりになったのか?辺りを見回すと、ワシみたいに一人で来ている客がほかに二人いるだけ。みんな注文し終わってゆっくりしているところだ。
 こうなるとウエイトレスさんも表に出る用事がない。今日いた3人はみなキッチンで裏方の仕事。だれも出てこない。客がいないから出る必要がないのだ。
 しかも沙夜ちゃんはまた新人に仕事の指導をしていた。紙を片手に作業の仕方を教えていた。こういうときはどうこうするといった具合に、マンツーマンで教え込んでいた。
 そんなわけだから沙夜ちゃんは表に出てこない。客が入ってくる気配もないから、もう今日は最後までこんな感じだろう。店内は本当に静まり返っている。
 …つまらない。
 いても何にもない。沙夜ちゃんも新人指導が忙しくて表に出てこない。本当につまらない。
 しかも今日は沙夜ちゃんのワシに対する視線はゼロ、そして普通の客としての対応。ワシの心は店内の雰囲気同様、静まり返っていた。
 前回来たときの沙夜ちゃんのワシに対する視線なんてつかの間の喜びだった。まだ1週間もたっていないのにこの有様。
 1年以上通い続け、全く声がかけられないまま時は流れ、いまだに状況を打開できていない。そりゃいいことだって続きはしないよ。
 もうね、沙夜ちゃんの視線とか行動とかでいいことがあったと思うのはやめるべきだ。声をかけて、感じのいい雰囲気になったときが喜びのときだ。声をかけない限り喜びのときはもう来ない。
 なんせ今日の感じを見ていると、今後視線をくれたり行動をとってくれるといったことはなさそうだし。片思いの気分だ。こんなことなら予定外の土曜日なんかに来るんじゃなかった。日曜仕事ならその次の日曜に来ればいいことじゃないか…。
 そんなことを考えていたら、時刻は17:00になった。お食事中おトイレさんも出勤し、仕事を開始。そろそろ出るか。
 依然として表にはウエイトレスさんが一人もいない。今レジに行ったらどうなるか。沙夜ちゃんが出てきてくれるか、それとも新人に来させるか。その結果を見るのが怖いので、お食事中おトイレさんが表に出てきたら無難にその人にレジをやってもらおう。
 やがて考えどおりお食事中おトイレさんが表に出てきた。沙夜ちゃんは新人指導で大忙し。さて行くか。
 上着を着て、財布からポイントカードと千円札を取り出す。会計は560円だから1,060円を出すか。50円玉が見当たらない。10円玉を6枚出す。6枚あるかもう一度数えて確認。よしOK。さて行きましょ。
 立ち上がろうとしてふと顔を上げる。するとなんと、新人指導中で忙しいはずの沙夜ちゃんが普通にドリンクバーの前に立っている。いつの間に!?そしてワシが立ち上がるのに合わせて「ありがとうございました」と言ってレジに向かった。なつかしい!
 沙夜ちゃんにレジをやってもらっている。信じられない。全く想像外の出来事だ。
 会計が済み、財布にお釣を入れながら出入り口付近に立つ。ワシの手が震えているではないか。沙夜ちゃんに突然レジをやってもらえたものだから。本当に神秘的な存在なんだな…。
 横目でチラッと沙夜ちゃんを見る。まだレジにおられる。そしてお食事中おトイレさんとなにやらお話。ワシが店を出るのと同時に、沙夜ちゃんもキッチンの奥へと入っていった。
 まさか沙夜ちゃんにレジをやってもらえるとは、一寸たりとも想像していなかった。駐車場を歩きながら上着を直す手がまだ震えている。
 店内を見てみると、沙夜ちゃんは引き続き新人指導をしている。ワシのレジをやるためにスタンバイしていてくれたとしか思えない。
 そろそろ帰るワシの雰囲気を悟り、あらかじめドリンクバーのところに出てきて待っていてくれた…なんだ沙夜ちゃん見てないフリして見てくれてるんじゃん!これは明るいぞー!!
 絶望からの逆転でまたうかれてしまうワシ。「視線とか行動とかでいいことがあったと思うのはやめるべきだ」なんて考えも吹っ飛び、すがすがしい気分で帰った。
 家に帰り、少々疲れて寝そべるワシ。その時ワシは何回もつぶやいていた。
 「沙夜ちゃん…、沙夜ちゃん…」
 沙夜ちゃんに対する気持ちは常に「今」がピーク。1年以上たってもだ。まあ去年の7月は少々へこんでいたが。
 早く何とかしたい。話しかけられなくて「また来週」なんてことはもうごめんだ。この強い意志、次回以降どのような形で現れるのか。その前に現せるかどうか、非常に緊張している。

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