3月27日(日)

 日曜日なのに仕事。あってはならないことだ。週に一度のグレートホステスの日だから。
 16:00過ぎに仕事が終わる。ここからグレートホステスまで約1時間。これから行けばまだ17:00。行っちゃえ。
 そもそも沙夜ちゃんがいるかどうか分からないけど。
 17:00ちょっと前に到着。駐車場の出入り口は二つあり、裏口のほうから歩いて入る。
 今日いなかったら限りなく赤に近い黄色信号。生きがいがなくなる…。でも仮に今日いなかったとしても、4月いっぱいは通い続けてみよう。何があるか分からないし。
 裏口から入ると、横長の駐輪場が左端から徐々に姿を現す。恐る恐る駐輪場を見ながら歩き続け、駐輪場が全体の5分の4ほど姿を現した。
 …また自転車がない。かなりヤバイ…。
 とは言うものの、ある程度は予想していたことだ。あまりへこまず、駐車場を歩き続けた。
 駐輪場の姿はまだ5分の4。あまり期待せず残りの5分の1を見てみる。
 ん?青い自転車、ママチャリハンドル、黒いサドルにBOKOの文字…。
 うおっしゃ〜!!沙夜ちゃんいる〜!!!よかったよかったよかった!
 いつもは緊張が走るこの瞬間も、今回ばかりは喜びしか感じなかった。
 店内へ。案内はいつものさん。
 「お一人様ですか、おタバコは?」
 答えるのもめんどくさい。お願いだから覚えてください。それよりも沙夜ちゃんは?
 キッチンの奥を見てみる。いた!2週間ぶりだがかなり懐かしい。
 いつものさんが二人用の小さい席に案内する。ウエイトレスさんがよく通る通路に面した席なのでいいのだが、その通路に対して結構高い仕切りがしてある。ウエイトレスさんを見るにはかなり無理して背を伸ばさなければならない。いつものさんの陰謀か。
 さて、リニューアルしたデリ&サラダプレートを頼むとする。沙夜ちゃんは注文を取りに来てくれるだろうか。
 ところが、キッチンの奥にいるのを見たのを最後に、全く姿が現れない。久しぶりだから来てほしいなぁ…。
 そうしているうちに亀島さんが注文を取りに来た。サラダを頼む。あれ?ドレッシングは選べないのかい?もし沙夜ちゃんが持ってきてくれたらそれを聞いてみよう。おいおい、話しかけるってそんな野暮用でいいのかよ…。
 それにしても沙夜ちゃんの姿がいっこうに見えない。背を伸ばして仕切りの向こうを何度も見る。結構キツイ。
 おまけに頼んだサラダもなかなか来ない。待ちぼうけ状態である。
 そのとき、私服の沙夜ちゃんがキッチンから出てきた。なんともう上がりである。まだ入店したばっかりなのにな…。
 まあ沙夜ちゃんの平均のバイトあがり時間は17:00の前半である。ワシが入店したのも17:00を少し過ぎていた。もしかしたらもう上がりかもとは予想していたが、実際にそうなってしまうとかなり悲しい。
 珍しく沙夜ちゃんはほかの従業員と一緒にお帰り。ワシは高い仕切りの向こうの沙夜ちゃんを目で追っていた。
 沙夜ちゃんはキョロキョロと店内を見回しながら歩く。ワシのことを探しているのでありますように…。
 しかし沙夜ちゃんはワシの存在に気付くことなく通り過ぎてしまった…。
 何ということだ。今までに何も出来事がなかったというのは多々あったことだが、ワシの存在に気がつかないなんてことは初めてだ。ワシは確かにここにいて、沙夜ちゃんも確かにそこにいるのに…。
 ワシは顔が真っ赤になった。照れているのではない。ショック、悲しみ、あせりが入り混じった感情によりそうなった。
 ワシはうつむいていたが、レジ付近で沙夜ちゃんの足が止まり、顔をこちらに向けているのが横目で見えた。沙夜ちゃんの顔を見てみる。顔はこちらを向いているが残念ながら視線は明らかにワシからズレている。
 レジにいる店長となにやら話している。まさか「今までお世話になりました」とか言ってるのだろうか。そうだとしたら今日が本当の最後じゃないか。
 でもそんな様子でもない。ふつうに「お疲れ様でした」という感じだ。それに今日が最後とかそういう予想はもうやめよう。今日奇跡的にいてくれたのだから。
 店を出て外を歩く沙夜ちゃん。また顔がワシのほうを向いている。しかしまた視線はズレていた。
 そしていつものようにうつむきながら駐輪場へ向かい、そのままお帰りになった。
 なにはともあれ、いてくれた。ひとまずは安心である。ここ2週間いなくて、ワシは何度も「何で話しかけなかったんだよ〜」と後悔した。しかしまたチャンスがめぐってきた。次は話しかけられるでしょ?出来るだろ?頼むよ自分…。
 それにしてもサラダがなかなか出てこない。あんな一皿になんでこんな時間かけてんの?それに沙夜ちゃん帰っちゃった今、いったい何のためにサラダを待っているのか…。
 ようやくサラダが出てきた。沙夜ちゃんもういないからパッと食べてすぐ出でようとしたが、再会の余韻でなかなか腰が上がらなかった。結局1時間くらいいて店を出た。
 うん、沙夜ちゃんがいた。今日はいた。また新しい年度を沙夜ちゃんと過ごしたい。そう願いながら、日がのびたとはいえもうそろそろ暮れるころだろう風景の中を歩いて帰った。

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