2月13日(日)

 グレートホステスに通い始めてついに1年が経過してしまった。モタついてる未来のワシを見たら、過去のワシはなんて言うだろう。
 自転車でグレートホステスへ。「どうせ声がかけられないんだったらいっそのこといないほうが…」なんて弱音まで出てしまうこのごろ。馬鹿ヤローだ。
 駐輪場を見てみる。沙夜ちゃんの自転車あり!会えない日が続いたが、ここ2週は連続で会える!
 自転車を止め、店の入り口に向かって歩く。店内を見てみると窓際の席で注文を取る沙夜ちゃんが見えた。あまりのかわいさにずっと見つめてしまった。
 店内の沙夜ちゃんがワシに気づく。ワシのことを見る沙夜ちゃん。
 そのとき。
 沙夜ちゃんがワシに向かって笑顔で会釈したように見えた。あまりにありえないことなのでワシは普通に入店した。
 でも気になるな…。あれがワシに対する会釈だったら、ワシは沙夜ちゃんを無視したことになる。それはいかん!あれはワシの錯覚であってくれ。
 店長が席を案内。禁煙喫煙を聞かれない優越感はさておき、沙夜ちゃんのさっきの会釈が気になる…。
 注文が決まり、顔を上げて注文を取りに来るのを待つ。そうすると沙夜ちゃんは真っ先に来てくれるのだが、今日はシカト。
 やっぱさっきの会釈、ワシにだったのかな…。
 心配していたが、やがて沙夜ちゃんが注文を取りに来る。シーフードサラダを頼む。
 しばらくして沙夜ちゃんがサラダを持ってくる。でも今日も話しかけられないと確信しているワシがいる。そうなるとわしの口は堅く閉ざされたままだ。
 今日は食事の用意、ドレッシング運び、サラダ運びを一度にやってくれた。そしてその時に伝票も入れた。
 滞在時間が長いじゃん。
 話しかける絶好のチャンスだったのでは?かなり長いこといてくれたから。でもそう思ったときには時すでに遅しだった。
 沙夜ちゃん、その伝票を入れる作業、今日は雑だった。グシャグシャポイ!という感じだ。やっぱさっきの会釈、ワシにだったのかな…。
 いやぁ、ワシに会釈するわけなんてないでしょう。そのとき沙夜ちゃんはババア集団の注文を取っている最中だった。ババア集団はよくいらんジョークを店員さんに言うから、それに対して愛想笑いしてただけだろう。
 それがテーブルを拭いたり皿を片づけたりと、客と接していないときに窓の外に向かって会釈したのだったら、間違いなくワシに対するものだろう。でもそうじゃなかったからね。
 でも、もしそれがワシに対する会釈で、沙夜ちゃんはずっと前から会釈しようと心に決めて本日実行したのだったら、それを無視したワシの罪は重すぎる。ワシが意を決して声をかけたら無視されたのと同じことだ。
 考えれば考えるほど心配になってくるので、ここは一つ落ち着いてサラダを食べた。今日も声かけられなかった無念も一緒に噛み締めて。
 食べ終わってしばらくしたら沙夜ちゃんがお皿をさげに来た。
 「こちらお下げしてもよろしいですか」
 さっきのこともあったので、ワシは思いっきり大きくうなずいて返事をした。
 しつこいようだけど、さっきのは会釈じゃないよね?いつもなら自意識過剰で、何かそういうことがあると「今のはワシを見てた!」とか言うのだが、今回ばかりは勘違いであってほしいと強く思った。作業中はワシのことなんか見ないもんね。
 そして、食べ終わった後も素敵に働く沙夜ちゃんを見ていた。ホントかわいい。1年って早いね。
 それにしても、今日も何もないなぁ。見てるだけで終わりだよ。たまにキッチンに戻る直前にワシをチラッと見てくれることがあったから、今日はそれで満足するか。
 沙夜ちゃんがバイト上がったらワシも帰ろうと思ったのだが、17:30になってもまだ働いておられる。今日はそんな早番ではなかったのかな。
 ワシの今日の入店は16:00。1時間半。このまま座っていても仕方ないので帰ることにした。
 さっきのババア集団がレジで会計中。その後ろに並ぶ。すると店長がワシの伝票とお金をレジの横で受け付けてくれた。普通は前の客がレジ終わるまで待つのに、店長はワシを待たせまいと「割り込みレジ」をしてくれた。VIPですな。
 お釣をもらう。例によって自分のふがいなさからすぐに店を出ることが出来ず、出入り口付近でゆっくり金を財布に入れていた。
 そして店を出るとき、振り返ってキッチンを見てみた。
 沙夜ちゃんが見てる!
 これは間違いない。ワシを見てた。遠くのキッチンから。何を思っていたのかは察することは出来なかったが。
 はい、今日も何も進展がなかった。明日はバレンタインデー。沙夜ちゃんはだれにチョコをあげるのだろう。そんな思いに胸を締め付けられながら、すっかり暗くなったこの街を後にした。

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