1月2日(月)

 去年の今日のあの沙夜ちゃんの笑顔は忘れることはできない。
 それを思うと、今日も行かずにはいられない。
 まだやめちゃったと確定したわけではない。だから今日も行こう。

 車でグレートホステスへ。
 駐輪場を見てみる。自転車はたった4台とガラガラ。人の雰囲気すら感じられない。
 沙夜ちゃんの自転車もないわけだが、今日ぐらいの雨で徒歩で来るってことは考えにくいなぁ。
 とりあえず車をとめて店内を見ることにした。

 働いているウエイトレスさんは、またあのロシア人っぽい子だ。あの子は大晦日から正月まで働きづめだな。
 ってか、沙夜ちゃんはいないでしょこれは。このあと来るってことも考えにくい。
 もういいか。帰るか。
 …ってなことを思いつつも、しばらくは待機した。
 そしてそのロシア人っぽい子のほかにもウエイトレスさんがいるのが見えた。あれはだれだ?若木さんか?
 ちょっと変化があったように思え、さらにお店の中を見ていた。
 そして…

 沙夜ちゃんがいる〜!!!!!

 キッチンから出てきたのが見えた。なんだなんだ、いるじゃないですか!
 今日は徒歩で来たんだね?突然そんなことされちゃうと分からないよ。
 ってか、いないいないと嘆いていたが、実はこんな感じで毎回いたのでは?
 心拍数が上がり、平常心では歩けずなんだかフラフラしてしまった。そんな足取りでお店へと向かった。
 まあ、なんだかんだ言ってたった3週間と1日ぶり。珍しくはないか。

 店に入る。若木さんの何も聞かないご案内。
 いつも座る店内全体が見渡せる席は禁煙席の左側のゾーン。しかし今日は右側のゾーンに大きく入り込んだ席に通された。
 端の4人がけの席に座った。沙夜ちゃんはこっちのゾーンで働いていたので、ここでよかった。

 ワシは沙夜ちゃんのお顔はうろ覚え。長く通っているけど、しっかり向かい合うことはほとんどないから。それに加えて少し間が合ったのでかなりボヤけてきている。
 ワシはメガネをかけ、前方で注文を取っている沙夜ちゃんをさらりと見た。
 うんうん、思い出した。こんな感じのギャル面だったね。カワイイったらありゃしない!

 基本的に、注文を取ってくれるのは案内してくれたウエイトレスさん。今日は若木さん。
 しかし若木さんは向こうのほうで忙しく動いている。来る気配がない。
 でもワシはあえてだれかにお願いすることもなく、じっと座っていた。
 したら来てくれた。沙夜ちゃんが!
 ワシはテレながらフライドポテトとドリンクバーを注文。
 注文を取り終わったらメニューを下げるわけだが、ワシは複数あるメニューをしっかりそろえ、沙夜ちゃんに手渡しした。
 これからも続けよう、この手渡し。そっけなく。

 沙夜ちゃんがフォークやケチャップを持ってこっちに向かって歩いてくる。
 ワシは極限にまでテレていて、顔を上げることができなかった。うつむいてテーブルの上を見ていた。
 視界の上から真っ白な腕が伸びてきて、フォークを置いた。
 ホント真っ白だ。雪のように。
 対照的にワシの顔は真っ赤ッカ。

 しばらくして沙夜ちゃんがポテトを持ってきてくれた。
 テーブルに置き、「ご注文の品は以上で…」とは当然聞かず、後は伝票を筒に入れるのみ。
 伝票を入れようとしたそのとき、沙夜ちゃんは「コホン」とセキをした。
 伝票を持っている手で口を軽くふさぎ、顔を向こう側にそむけて「コホン」としたのだ。
 そしてから伝票を丸めて筒に入れ、キッチンへと戻っていった。
 沙夜ちゃんのセキがかかった伝票…。
 そんな変態的思考はさておいて置くとしよう。
 沙夜ちゃん、そんなに我慢できないような強いセキではなかった。非常に軽いものだった。
 客の前ではセキはしないほうがいい。しかもあれは簡単に我慢できる程度のものだ。
 なのに我慢しないでしたっていうのは、ワシに対する気楽さの証なのか。それはいいことだ。
 でも、あのセキは弱さゆえにワザとじゃないかと思えてしまうものだった。
 好きな人を目の前にすると、余計なアクションをしたくなるのが人間の一般的な心理。
 ワシも沙夜ちゃんの視線を感じると、こっているわけでもない自分の肩をもんでしまう。じっとしていられない。
 で、好きな人が目の前にいるとなると、もっと大きくアクションしたくなる。
 それでワシもよく無意味なセキをしたもんだ…。
 以上、自分本位に推測してみた。

 姿の見えなくなった沙夜ちゃんを気にしながらドリンクバーへ行く。
 お湯を注ぎ、席に向かって歩き始めたと同時に沙夜ちゃんがキッチンからドリンクバーへ向かった。
 もう少しでブッキングだったのに。
 2度目のドリンクバー。このときはバーの左に位置するレジ横で待機。ワシのことを見てくれ。

 やがて沙夜ちゃんの姿が見えなくなる。
 そして私服姿の沙夜ちゃんが出てきた。久しぶりにミニをはいておられる。
 ワシの入店から30分、最近は短時間しか一緒になれない。
 外に出た沙夜ちゃん、ガラス越しに遠くのワシを見た。
 いやワシを見たのかどうかは分からないが、ワシのほうを見た。

 今日は沙夜ちゃん歩きなわけだから、そのまま街のほうへと歩いていくのだろうと思った。
 しかし、駐輪場のある駐車場に入って来た。
 あれ、沙夜ちゃん自転車あるのかな。今日は違う自転車なのか?
 いや、外に今ある4台は沙夜ちゃんがいないときも止まっているおなじみの自転車だ。沙夜ちゃんのはないはずだ。

 …まさか。

 ワシは注意して窓の外の駐車場を見ていた。

 一台の車が通り、その運転席を見た…。

 すると…

 やっぱりそうだ!なんとなんと沙夜ちゃん、車である!!!

 沙夜ちゃんいつの間にか免許を取っていたのか!うっひゃー!!!

 ちゃんと初心者マークをつけた車を悠々運転しながら、沙夜ちゃんはお店をあとにした。

 そうだよな、去年18歳を迎えたわけだから、もう免許も取れるよな…。
 見えないところで成長している沙夜ちゃんにちょっとショックを受けてしまった。

 その後1時間近く座り続け、ようやく店を出ることにした。
 よく働いているロシア人みたいな子にレジをやってもらった。

 2006年を迎えることができた。

 いないいないと騒いでいたが、いざいてもこのとおり何もできない。
 そんなんだと、沙夜ちゃんがどんどん成長してもっと遠くの存在になってしまうよ。
 自分も成長して沙夜ちゃんに抜かれないようにしろよ。
 そんなことを思わせてくれた、沙夜ちゃんの今年初めての可憐なお姿だった。

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