5月5日(木祝日)

 去年とは打って変わってバイト三昧のゴールデンウィークを送っている沙夜ちゃん。果たして3日連続でなんて働いているかな?
 歩いてグレートホステスへ。駐輪場を見てみると沙夜ちゃんの自転車がある。
 うぉー、いるんですねー!!
 最近はいるとわかると心の中で叫んでしまう。緊張のあまり頭を抱えて。
 店を見てみると、林マヤに似た社員がたくさんのお客のレジの対応に追われている。非常に混雑している入り口から入った。
 人と人との間をすり抜けて入ると、亀島さんが気付いてくれた。
 「お一人様ですか」
 うん、これだけ人数が入り口にいると、一人で来たのか連れがいるのかわからないからでしょう。昨日と同じレジ付近の4人がけの席に通してもらった。
 やがて亀島さんが注文を取りに来る。ポテトサラダとドリンクバーを頼む。
 「ドリンクバー、ご利用ください」
 そういってキッチンへ戻り、そんなに時間をかけずに注文の品を持ってきてくれた。
 ワシはいつも品が届いてからドリンクバーを取りに行く。お品を沙夜ちゃんが持ってきてくれるかも知れず、ドリンクバーに行っている間に持って来られちゃうと悲しいから。まだドリンクバーを持ってきていないワシに亀島さん  「ドリンクバー、ご利用ください」
 わかってますって…。
 サラダを食べていると、喫煙席の作業場に沙夜ちゃんが登場。
 サラダを食べながらワシは時折沙夜ちゃんを見ようと顔を上げる。すると沙夜ちゃんもこちらを見てたようで、ワシと顔が合うとすぐに下を向いた。
 今日はこれが何回も続いた。ワシが見る。沙夜ちゃんも見ててすぐ目をそらす。これが何回も。
 ドリンクバーのおかわりに行く。作業場の沙夜ちゃんを見てみる。また顔が合った。戻るときはさすがに下を向いていた。
 もう一回おかわり。作業場の沙夜ちゃんを見てみる。さすがに2度目はこっちを見ていない。戻るとき、今度は見てた。
 そんなことをして非常に楽しんでたワシ。それにしても沙夜ちゃん、今日は作業場にいる時間がやたら長い。ずっとそこにおられる。近くていいのだが、沙夜ちゃんが下を向くと、レジのクッキーのショーケースが邪魔でよく見えない。ワシはたまに首を動かして覗き込むようにして見てた。
 ワシが体勢を直すために大きな動きをすると、下を向いてた沙夜ちゃんがそれに合わせて顔を上げてワシを見る。これぞ、見てないフリして見てくれて!
 こんだけいい感じなのに、今日はふれあいが何もない。これは悲しい。
 ならば、レジのとき話しかけてみるか…。
 今日はタイミングを計り、沙夜ちゃんにレジをやってもらえるように席を立とう。
 そう決めたとたん、ワシの心拍数が異常な上昇を始めた。
 ドキドキ、ドキドキ…話しかけるぞ、絶対話しかけるぞ…。
 決意すればするほど心拍数が上がる。それがやがて息苦しさとなって表れ始めた。
 …苦しい、心臓がバクバク言っている。そりゃそうだ、いよいよ話しかけるんだもんな…。いよいよ…。
 息苦しさがワシの表情に表れ始めた。険しい表情でワシを見る沙夜ちゃん。マズイ、異常だと思われる。ここは冷静に冷静に。
 やがて緊張は治まった。しかしトイレに行きたくなった。沙夜ちゃんが作業場から離れたところを見てトイレへ行った。トイレから出てドリンクバーのところに差し掛かったとき、前方でレジからワシの席を見つめている沙夜ちゃんが見えた。ワシの足音に振り返り、すぐ目をそらす。長い時間いてトイレに立てば、もう退席だろうと思い、スタンバイしてくれていたのだろう。そんな沙夜ちゃんを見たら余計に帰りたくなくなり、再び座った。
 さあ、どのタイミングで行こうか。しかし緊張する。もう少し先延ばしにして…。
 そんなことをしていたら、なんと店長と林マヤ社員が出てきてレジを陣取ってしまった。これでは沙夜ちゃんがレジ出来ない!
 それでもタイミングを計り続けた。一瞬レジがあいて、沙夜ちゃんがいちばん近くのところに来た。今がチャンスか。いやもう少し…。
 やがて沙夜ちゃんがドリンクバーで水を汲んで手に取った。これを持って控え室に行くと上がり、お客さんへあげればまだいてくれるのだ。
 …控え室へ行った。逃がしてしまった。何やってるんだよ…。
 これを見てワシも席を立ち、会計を済ませて外に出た。
 あれだけ強く話しかけようと決意したのは初めてだった。それを何、延ばし延ばしにしてチャンスを逃がした。ワシは自分の臆病さに絶望した。
 いくら強く決意しても結局ダメ。もう今後話しかけることは出来ないだろう。レジだろうが、席だろうが。
 それが決定的となってしまった今、もう打つ手はない。アタックできない。
 それを悟ったワシの足取りは非常に重く、家に着くまでに50分かかった。

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