プロローグ

 2003年3月。ワシは有楽町ビックカメラで事件を起こし、丸の内警察署に連行された。両親に引き取りに来てもらうというなんとも情けない事態になった。
 それをきっかけに、親父と隔週で二人だけで外食するようになった。ここ数年は親子としての会話もなく、親父としてもワシの素行がまったくわからないという状況を打開したかったのだろう。現にワシはろくに職に付かず、よく分からない身分だ。
 そしてワシの心の闇を解く目的もあったのだろう。ある意味ワシは親父に引きこもり気味だと思われている。隔週の飯会によってコミュニケーションを取り戻すと同時に、ワシの近況を知ろうとしたのだろう。
 ああいう形で迷惑をかけたわけだから、ワシは拒まなかった。逆にワシはすばらしい志を持って毎日を送っているということを、アピールしようという気になった。こうして、親父とワシの隔週の飯会が始まった。

 最初はいろいろな店を転々としていたが、ここ最近は有名ファミリーレストラン、グレートホステス某店に落ち着いている。もう何回行ったことか。
 ファミレスの店員の中には、必ずと言っていいほどかわいい店員さんがいる。ここグレートホステス某店も例外ではなかった。
 ある日、ふと店内を見渡すと、お人形さんみたいなものすごくかわいいウエイトレスさんがいるのに気がついた。あまりのかわいらしさに驚きつつも、「かわいい子が働いているもんだなー」と軽い気持ちで見ていた。
 最近は便利になったもので、レシートには必ず担当したウエイトレスさんの名前が表示される。それ以前に、店員さんは名札をつけているので、そのかわいい店員さんの名前を知るのはいたって簡単なことだった。
 彼女の名前は大塚沙夜子。かわいい女の子である。でもかわいいだけなら別に気にもならないのさ。
 その大塚さんに変化が見られ始めたのは2003年の暮れあたり。
 その変化とは。いやいや、たいしたことない。ワシらが席を立つと真っ先にレジに向かい、ワシらを待つようにレジで待機するようになった。ただそれだけのことさ。第一そんなのは店員の常識で、お客さんをレジで待たせないためにそうしているだけだろう。
 しかし、レジはそのとき近くにいる店員に任せればいいのに、沙夜ちゃんはわれ先にとレジに向かい、こちらをずっと見ながらワシらのレジ到着を待ってくれているのだ。これは偶然か?

 2004年初め、グレートホステスへ。お客さんが比較的少なく、ほかのウエイトレスとレジのところで談笑していた沙夜ちゃん。ワシは店に入るなり外していたメガネをウルトラセブンの変身のときのように目に当てて、沙夜ちゃんを見た。沙夜ちゃんもこっちを見て目が合っちゃってワシ嬉し。
 その日もレジをやってくれて、レシートにしっかりとお名前が刻まれた。このレシートは一生捨てない。でも感熱紙だからだんだん消えていってしまうのが悲し。

 次の来店。沙夜ちゃんが席を案内してくれた。なんか表情が険しかったように見える。ワシに対して緊張しているのでありますように。

 ある日、そんな沙夜ちゃんもワシらのレジ担当を逃がしてしまうことになる。ワシらが席を立ったときはレジと反対方向の席で片づけをしていた。レジにはすでに店員さんがいる。さすがの沙夜ちゃんもこれではレジができない。普通に他の店員さんに任せた。
 他の席を片付けてるとき、店員さんは「ありがとうございました」と一言いって片付けに専念していればいいはず。ホテルマンみたいにお客さんの姿が見えなくなるまで見届ける必要はない。しかし沙夜ちゃんは片付けの手を止めてこちらをずっと見ていた。ずーっと見ていた。
 この一件でワシのハートに火が付いた。沙夜ちゃんはこちらを意識している。あんなにかわいいのにワシなんかを意識してくれている。燃えにもえたぜ!!完全に沙夜ちゃんモードがスタートした。

 この出来事を受け、親父と行かない週は一人でグレートホステスへ行くことを決意。つまり毎週通うことにしたのである。

INDEXへ